ドイツ語とボク

単語量を増やす
往復書簡
DSH対策単語集への意見
 DSH直前クラスに入ったとき、ボクはまたもや深刻な単語力不足を痛感した。授業で配られるプリントを見ても、DSH対策問題集を開いても、一つの長文にいったいいくつの未知単語があることか。DSH模擬試験の長文問題を見てみたら、一つの行に最低一つは分からない単語がある。長文問題が80行あるとすれば、約100語は分からないのだ。確かに文章の意味は大概分かるが、細かな質問をされるともうお手上げ。これでDSHに受かるわけないじゃないか。

DSH対策教材に見られる長文問題のテーマ例
■人類学的にみた人間の身長の変遷
■人間の自然干渉による気候の変化
■地球の面積に占める砂漠と進行しつづける砂漠化
■通信手段の多様化とデジタル化
■サルと人間の違い - 発達の段階 -
■インターネットを通じたバーチャル大学
■言語の起源 - 原初的言語と現代言語の相違 -
■クローン技術
 アウグスブルクにいた頃も単語力不足に悩んだ。あの頃ボクは必死に単語を暗記し、1ヵ月半で約1000個の単語を無理やり詰め込むことに成功した。もちろんそんな覚え方では忘れるのも早い。忘れた単語はもう一度覚え直し、その後も徐々に単語量を増やしてきた。DSH直前クラスが始まる頃にはようやく、授業で使っていたテキストに出てくる単語の、80%程度を理解できるようになっていた。「あと20%。20%詰め込めば、長文問題で苦しまなくて済むはず」 とボクは心に言い聞かせた。

 しかしいざDSHクラスが始まり過去問を見てみると、また分からない単語だらけ。これまでの授業では生活上必要単語や、簡単な読み物の理解に努めてきたはずだった。しかしDSHの問題には、もっと学術的な内容が出題される。例えばいま手元のある DSH対策教材 に収録されている文章を挙げれば、内容はざっと表 (緑の枠) のような感じだ (いいかげんな内容説明で申し訳ない)。そしておよそ7割以上の長文問題には、

「○○大学の××教授は、これを次のように説明している」
「○○研究所の××博士は興味深い調査結果を紹介している」
「○○大学の××研究グループの調査によって、■■が明らかになった」

と言うような下りが文中に含まれ、以下で学者の論文の論旨を要約する形式を採っている。当然にも学術的な専門用語も頻出するが、文中ではこれらの言葉を専門外の人にも分かるよう説明が加えられている。言葉を言葉で説明するということは、それだけ抽象的な概念、知覚・感覚に関する単語も十分に理解しておかねばならないということだ。例えば der Geist (精神・魂・心・思潮・気風)、Überzeugung (確信・信念)、das Bedürfnis (欲求・必要・需要)、そして特に 「意識・自覚・故意」 をあらわす das Bewusstsein などはDSHの十八番(オハコ)と言っていいだろう。

 また内容が論文の要約である以上は論文用語も必要だ。下の表 (黄色い枠) に挙げた単語は基本中の基本と言ってもよい。もし文中に挿絵などがあれば、die Abbildung (挿絵・図版、イラスト)、die Bezeichnung (名称・表示・記号)、die Tabelle (表・一覧表)という言葉も当然必要だし、そしてなにより重要なのは上昇・下降・拡大・縮小・減少・増加・比較・平均・一定・割合・比例・短縮・伸張などといった統計学用語。こられが分からなければお話にならないのだ。

analysieren (分析する)
die Angabe (データ・報告)
der Anlass (原因・きっかけ・機会)
die Anmerkung (注釈・註)
der Ansatz (アプローチ・発端・試み)
die Argment (論拠)
der Aspekt (見方・観点・見地)
die Bedingung (条件・前提)
das Befinden (所見・意見・判断)
der Begriff (概念・理解・考え・想像)
das Bestehen (存在・存続、固執)
das Dasein (存在・そこにあること)
die Definition (定義)
die Eigenschaft (性質・特質・特性)
das Ergebnis (結果・成果・結論)
die Folgerung (推論・結論)、
der Fortschritt (進歩・前進・発達)
der Hintergrund (背景・状況)
die Hypothese (仮定の・仮説に基づいた)
die Leistung (業績・成績・成果・能力)
die Maßnahme (処置・対策・措置)
das Muster (パターン・雛型・モデル)
die Probe (試験・検査・テスト・サンプル)
das Referat (研究報告・調査報告)
das Sachverhalt (状況・事情)
die Sicht (眺め・見方・観点・見解)
die Statistik (統計・統計学)
die Ursache (原因・理由)

 その上で形容詞、例えば 密集した・効率的な・滑らかな・明らかな・強制的な・本質的な・変化に富んだ・選択の・完全な・同類の・数字上の・数少ない・多量の・余分の・精神的な・急進的な・ひっくるめた・物質的な・生まれながらの・・・・、などの語も理解できねばならない。設問に答えるには形容詞・副詞の理解が不可欠だ。そしてさらに、よく出題されるテーマに関する用語を押さえねばならない。

 Treibhaus-Effekt (温暖効果・温室効果) も最近はよく出題されるが、das Treibhaus 程度の単語には試験問題中に注釈さえなかったりする。Treibhaus は見ての通り Treib + Haus だが、treiben という自動詞には 「漂う」 とか 「漂流する」 などの意味がある。他動詞の treiben には、「追い立てる」、「駆り立てる」、「押し流す」、「行う」、「動かす」 などという意味がある。これらのことから das Eis (氷) と融合した das Treibeis が 「流氷」 を意味するのは、至極当たり前のことのように思える。しかし Haus と融合して、どうして 「温室」 になるのだろうか。恐らくこれは類推しようにも浮かんでこないだろう。にも関わらず問題文中にはこの語に関する注釈がない。ということは、DSH受験生なら知っていて当たり前というのが大学側の判断らしい。ちなみに最初のDSH試験に落ちるまで、ボクはこの語さえも分からなかった。

 そこでボクは最初のDSHに落ちたあと、DSH対策教材や過去問を片っ端からチェックすることにした。目指すは更に1000語。その数に根拠などなかったが、既に若いとはとは言えないボクの脳にとって、これが限界の数だと思ったからだ。


問題は 「どうやって覚えるか」
 単語の覚え方というのは人それぞれだろう。単語博士のような友人がいたとしても、その友人の覚え方が自分にも合うとは限らない。まずは自分にあった 「単語学習法」 を探さねばならない。しかしそうは言っても、これは簡単なことではない。日本では英単語を覚えるのに単語帳や単語カードを作ったり、ひたすら書いてみたりした。しかしどの方法も、ボクには大した効果を与えてはくれなかった。アウグスブルクの学校にいた頃、この重大な悩みについてボクはある先生に相談した。通称 Sigi という、実はあまり評判のよくないその先生は、ボクにいくつかの方法を提示してくれた。そのうちの一つが、今現在ボクが使っている学習法。ここでコイツを紹介しよう。

 早い話が 「単語カード」 を作るのだが、日本のようなリングで止めた豆単カードではない。まずは箱を用意する。菓子箱でもなんでもいい。この箱に仕切り版を4枚つけて、単語カードを立てられるスペースを5つ作る。これが右の黄色い図のような状態だ。では作った単語カードをめくってみよう。
仕切り版を設置した箱。ここに単語カードを立てていく


 ちなみにボクの場合、単語カードは両面ではなく 「片面刷り」 なので、めくると言っても 「裏返して見る」 ようなことはない。積み重ねた一番上のカードを下方にずらすと、最初の項目 「WORD」 が目につく。更にずらすと、カードには印刷できなかったウムラウトなどの 「特殊文字」 に関する注意書きが現れ、その次に 名詞・動詞・形容詞などの 「品詞」 が現れる。ここまでずらしてみて 「さて、この意味は何でしょう?」と問うのがボク流の単語カード使用法。正しいスペルや語尾変化、使い方なども大事だが、まずは長文を読んだときに意味を理解できるか、それが重要なように思えた。
現在使っているのは、健康保険証やパスポートなどを保護する二つ折りケース。一つのケースにポケットが二つあるので、ボクは3枚購入した

 カードをずらしてみて、もしその意味を覚えていなかったら、そのカードを箱の一番手前のスペースに立てよう。もし正しく答えられたなら、手前から2つ目のスペースに立てる。カードを全部めくり終えたら、今現在カードは2つに区分されたことになる。次の日に、手前から2つ目のスペースに入っているカードを取り出し、もう一度確認してみよう。もしまだ覚えていたなら、そのカードを手前から3つ目のスペースに立てよう。しかしもし裏の解答を答えられないカードがあれば、そのカードは、第1のスペースに戻す。

 この状態では第1のスペースと第3のスペースにのみ単語カードが入っている。さて、昨日第一のスペースに立てた単語をチェックしよう。もし分かるカードがあれば第2へ、分からねば第1へ。このとき、第2のスペースから第1のスペースへ今日移動してきたカードはチェックしない。そのカードは第1のスペースに置きっ放しにして明日に回す。おおよその方法は理解できたろうか。問題は3日目だ。第3スペースのカードを取り出す。チェックして意味が分かれば第4へ、もし間違えれば第2ではなく、第1のスペースに戻す。間違えたら、常に第1スペースに戻るのだ。このようにカードのチェックを続け、第5のスペースを通過したカードは、その時点で破棄しよう。

 これは Gymnasium に通うドイツの生徒らがよくやる方法らしい。非常にシンプルで、最初聞いたときはあまりボクの興味を引かなかった。しかし当時のボクは藁 (ワラ)にもすがりたかったので、試してみたら効果テキ面。この方法をボクは今でも続けている。しかしそうは言っても、この箱を部屋から持ち出すと結構かさばってしまう。初期には折畳式の箱を考案したのだが、結局今はビニールケースを利用している。要はカードを5カ所に区分できればよいだけなのだ。


単語カードの問題点を克服
形はA4用紙二つ折り。一般の雑誌の半分サイズと考えれば分かりやすい。ボクが目指したのは、「カバンに入れても邪魔にならないサイズ」

 単語カードも500枚を超えると、いくらやっても覚えられないカードが出てくる。以前覚えた単語によく似ているというのが大抵の理由だ。そういう場合、以前のカードと何が違うんだろうとチェックしてみる必要がある。しかしカードが多すぎると、古いカードを探し出すのに一苦労。そこで、覚えた単語の一覧表の必要性に迫られた。

  アウグスブルクにいた頃は、手書きのカードのみを使っていたが、DSH問題集から単語を抜き出すに当たって、ボクはすべてをパソコンに打ち込むことにした。一覧表を作り、このデータを元にカードを自動印刷しようという工夫である。本来は Microsoft社 の Access というソフトが適しているのだが、ドイツで使うことはないだろうと思いボクは日本の自室に置いてきてしまった。仕方なく一覧表 (単語集) 作成には Microsoft 社の Excel を、カード印刷には Tcard というシェアウェアを利用した。

 自作単語集は版を重ね、どんどん使いやすいものに進化している。用途は単語カードを使った暗記時、あるいは学校で問題を与えられたときの単語チェック。辞書を引いているより間違いなく早いし、載っているか載っていないかも自分が一番よく理解している。何しろ単語カードで見たことのあるものはすべて収録されているのだから。大急ぎで名詞の性の確認する場合などにも非常に重宝している。

 制作に当たってはできるだけ小さく、軽く、そして探したい単語をすぐに探せることが目標だった。サイズは結局A4用紙の半分に落ち着いた。これならばDSH試験中にカンニングするのだって、なんとか可能だろう(笑) データはA4用紙にビッシリ入るよう調整し、印刷時に 1/2 レイアウト印刷を行う。すると非常に細かい字で、1枚のA4用紙に2ページ印刷することができる。これを折り曲げると、袋とじのようなページが完成する。当初は両面印刷を考えたが、ハードに使用するものなのでこの形がベストだと思う。
第一巻は1000ワード。それ以上増やすと覚えきれない。しかし1000と言っても派生語も含まれるので、学習達成は思ったより早かった

 単語の解説はすべて1行に収める。辞書で調べて、1行には書ききれないほどの意味があったら、DSH試験に必要な意味を優先させた。動詞の場合は、後続する名詞の格や、成句表現の収録、再帰動詞の用法をどう短くまとめるかに苦心した。また重要な他動詞・自動詞の別、特殊な非分離動詞の表示、名詞の場合は複数形や特殊語尾変化に関する特記には、記号を駆使して表現した。

 単語カードの作成は、Excel データを CSV 形式で保存し、カード型データベースソフト Tcard で読み込む。しかし困ったことにこのソフトは Unicode に対応していないため、Excel では表示できた ウムラウトやエスツェットを認識できない。そこで 「特殊文字」 という隠し項目を追加し、元データの方にウムラウトがある場合はこの欄に記入した。

 最初はとにかく、長文問題に出てくる単語のうち重要なものを、片っ端から打ち込むのが仕事だった。このときは問題集の 「設問」 ではなく、まず 「課題文章」 を難なく読みこなせることが重要な課題だったからだ。単語の暗記にとりあえず満足できるようになったとき、ボクはようやく、「実際に設問に取り組んでみるか」 という気になった。しかしここで思わぬことが起こった。設問文の意味がよく分からないのだ。


設問用単語集の必要性
WORD:
特殊文字:
品詞:
日本語訳:
用途:
Uberalterung
U
n.f
高齢化、時代遅れ

単語カードの内容。特殊文字を印刷できなソフト用対策に苦慮した

 これまで長文問題に見られる単語を十分にチェックしてきた。もはや単語量はかなり増え、自信もついた。にも関わらず、設問が読めない。知らない単語が多いのだ。そこでまた、設問文の中で分からない単語をチェックしてみることにした。そうしてようやく気づいたのは、明らかに 「設問文専用単語」 というものが存在することだ。例えば簡単な例を挙げれば 「unterstreichen」。「下線を引」 くというこの動詞は、基礎クラスの頃からおなじみの設問専用単語だ。この単語は設問文に見られても、課題文章の中に現れることはまずほとんどない。DSHの設問にはこういう単語も非常に多いのだ。

 DSH過去問、対策問題集をちょっと確認しただけでも、意味のよく分からない単語がいくつもあった。ボクは 「設問用単語集」 の必要性を痛感した。そして今度は設問に首っ引きになった。分からない単語、いまいち自信のない単語を、設問文から片っ端から抜き出した。一見重要そうでない単語でも、まったく別の問題などで3度以上目にしたものは収録することにした。そうしたら出てくるは出てくるは、その数約300。長文を読めても、設問を理解できねば点数など取れるはずがない。また新たな単語集ができてしまった。このようにして出来上がった単語集は、先述の単語集とあわせて既に3冊。もはや販売してもいいくらいの充実度となってしまった。現在ある4冊とは、
Deutsch - Japanisches Taschenwörterbuch für die DSH Prüfung
Deutsch - Japanisch / Wörter der Aufgaben für die DSH Prüfung
Deutsch - Japanisch / Grammatiche Struktur für die DSH Prüfung
Deutsch - Japanisch (名称未定のテーマ別類語辞典)
 3冊目は 「文法用語集」 と 「前置詞支配動詞集」、それに 「大学募集要項解読対策単語集」 の合体版。中級クラス終了までにこの3冊をクリアしてしまえば、恐らく単語に関する不安は完全に拭い去ることができるだろう。あとは根気と努力というやつだ。


データの配布について
 ボクは日本を出るとき、初心者向けのドイツ語単語集を買ってきた。日本の大学や大学院入試ドイツ語問題に登場した単語、および引用元としてよく使われる雑誌などから抜粋した単語、合わせて 1000ワードを重要度の高い順に並べたものだ。しかしこれはまるで役に立たなかった。いま開いてみても思うのだが、対DSH用としては的外れ。なぜ重要なのか理解できない単語が非常に多いのだ。もちろんこの本はDSH用のものではない。だから的外れでも当然だ。しかしだからこそボクは思う。DSH対策用の日本人向け単語集というものがあれば、もっともっと楽だったのにと。
単語集第一巻 (Blau) の第1ページ目を開いたところ。辞書の使用上の注意がびっしり書かれている

 ボクの作った単語集は、まさに対DSH単語集だ。しかし単語の選択に、ボクの個人的な意見が反映されすぎているのは大きな問題だ。また重要単語でも、ボクが以前から知っている単語は含まれていないし、逆に基本単語にも関わらずボクの記憶があいまいなために収録した単語も多い。つまり 「対DSH」 ではあっても、広く 「一般用」 と言えるデータではないのだ。

 しかしここに収録した単語が、DSH問題に出てくる可能性が高いのは確かである。もしDSH対策としてこの単語集を参考にしたい人がいれば利用してほしいと心から思う。そこで、このデータは、独ボク利用者が自由にダウンロードできるようにしたい。

 しかしこの単語集はまだ多くの人の目に触れていないため、タイプミスはもちろんのこと、明らかな内容的なミスも恐らくあるはずだ。そこでダウンロードした方々には、利用と引き換えに責務を負ってもらいたい。つまり単語集の間違いを探し、指摘し、日本人向けDSH対策単語集として完璧な形にする助力を願いたいのだ。

 その他、利用に関する詳細はダウンロードコーナーの記述を熟読してほしい。そして利用規約に同意された方のみデータを取得できることとする。


2004.06.17  kon.T

(単語集)


(単語カード)


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