ドイツの語学学校へ

12、ビザ取得など公的手続きに関するアフターケア メニュー
 語学学校で3ヵ月以上学ぶためには、いろいろな手続きが必要だ。初めての人にとって語学学校の入校手続きももちろん大変だが、学校に入ってからも手続きは多い。最初にすべきことは、市役所窓口での -e Anmeldung。この単語を辞書で調べると 「申告・申請・出願、申し込み」などという訳が目に付くが、市役所での Anmeldung と言えば 「住民登録」 を指す。

 まずは住民課窓口で登録用紙 -s Anmeldungsformuler をもらい、記入事項を読んでみる。初めての時、ボクはこの用紙の記入項目を理解するのに、丸半日以上かかった。しかし問題は、意味が分かっても、どうやって書けばいいのか分からないことだ。例えば国籍の欄には何と書くべきか。Japan か japanisch か? この場合は japanisch が正しいらしい。宗教の欄はどう書くべきか。確かに実家は代々仏教徒ということになってはいるが、両親は仏教についてほとんど何も知らないに等しい。ボク自身だって仏教をことさら信仰しているわけでもなければ、キリスト教のような洗礼儀式があったわけでもない。要するにボクは無宗教なのだが、それでも仏教徒と書くべきか、あるいは無宗教と書くべきか。そもそも宗教によって、何か社会上の制約があるのかどうかもさっぱり分からない。いやいやそれ以前に、「無宗教」とはドイツ語でどうやって書くべきなのか。 ・・・と、悩みだすとキリがないのだ。しかもこれだけでなく、頭を悩ます質問項目など山とあるのだ。

 住民登録をなんとか終えても、次は銀行口座を開設しなければならない。ドイツではあらゆる決済で銀行口座を必要とするからだ。銀行の窓口では職員が何やら説明してくれるが、ドイツに来たばかりの、ましてドイツ語の初歩さえ分からない人間に、それを簡単に理解しろと言うのが無茶な要求だ。

 そしてその次は健康保険にも加入しなければならない。なぜならドイツの保険会社との契約は、ビザ取得のために絶対条件だからだ。日本でも同じだが、保険契約の解説書を読むのは非常に骨が折れる。基礎クラスを終了したくらいのドイツ語能力で理解できるような代物ではないのだ。これを何とかクリアしても、つぎには難関のビザ発給があり、定期券の購入があり、もし部屋が賃貸アパートなら、住民登録以前に賃貸契約が必要なはずだ。さらに必要なら携帯電話の契約まである。とにかく住み始める初期は手続きに追われるのだ。

 こんなものを全て一人でやっていたら、もはや学校の授業どころではない。だから当然にも語学学校には、これらの手続きをバックアップしてもらわねばならない。しかし手続きの手伝いを 「当然の義務」 と考えている学校もあれば、「語学学校は語学教育のみが仕事」 だと考えている学校も実際に存在する。また、ちゃんとバックアップしてくれる学校であっても、その 「質」 は学校によって雲泥の差がある。

 大抵は、学校についた初日にいろいろな説明を受ける。例えば 「まず■■通りの市役所2Fへ行って住民登録をしなさい」と、担当者は言うかもしれない。しかし学校によっては、登録用紙の記入サンプルをコピーして渡してくれて、「これと同じ用紙を市役所で手に入れ、同じように書きなさい。またあなたは日本人だから、ここの部分は▼▼と書きなさい」 など細かく指示してくれたりする。また別の学校では、既に登録用紙が用意されていて、書き方の説明をその場でしてくれたり、場合によっては全て記入してくれる学校もある。

 ボクが通った学校で最もケアに力を入れていた学校では、「パスポートを1日貸してくれ。担当者がまとめて生徒の住民登録をしてくるから」と、一切合際面倒を見てくれた。これは少し行きすぎのような気もするが、学校毎の差を説明するには非常にいい例ではないだろうか。

 ちなみにボクは、この学校の校長に言った事がある。「自分で苦労しながら行政手続きをするのも、生徒にとってはいい勉強ではないのか? すべて無料でやってくれるのは嬉しいが、少しやり過ぎのような気がするけど?」 と。この時校長は次のように答えた。

 「まぁ、確かにそうだよな。だけどな、これは基礎クラスの生徒にとっちゃぁ大仕事に違いない。一人でやり遂げようと思ったら、大変な時間がかかる。それは君が一番よく知っているだろう。中級以上の生徒ならともかく、基礎クラスの生徒にとって、それはあまり効率のよい勉強ではないと思う。そんな時間があれば、宿題や復習にこそ時間を使ってほしいんだ。学習効率を考えればその方が絶対にいいはずだからね。勉強以外のことに浪費する時間を、私は少しでも取り除いてやりたいと思うんだ」。

 営業効率より生徒のことを第一に考えようとする態度に、さすがのボクも頭が下がった。そしてよく考えてみれば、その学校のパンフレットにそんなサービスは一切書かれていなかった。つまりは校長の考えが、単なる 「客寄せのウケねらい」 ではない事がよく分かる。しかし・・・、ボクはここで突然 「あれ?」 と思った。そしてボクは更に、少し冗談っぽく聞いてみた。

 「確かに基礎クラスの生徒には大仕事だとボクも思いますよ。でもね、中級程度の生徒にとって公的手続きは、やっぱりいい勉強になると思う。ところで、ボクはこの学校に中級の最上位クラスから入ったんだけど、校長はボクの Anmeldung も代行してくれたよねぇ? あれはどうして?」。これを聞いてやると、校長はおかしそうに笑って答えた。「確かにそうだった(笑) けどねぇ、公的手続きも、ある程度のレベルに達している生徒にとっては、やっぱり単なる時間の無駄使いに過ぎんよ。君は確かに中級から入った。だけどさ、君の場合はちょっと特殊だよ。だって、今までに君は何回引っ越した? そんな引越しのプロに、これ以上公的手続きの経験を積ませてどうするんだよ。それこそ正に時間の無駄ってもんだ (爆笑)」。どうやら、相手のレベルや境遇をある程度考えた上で動いてくれているらしい。

 さて、我々が語学学校に求めるべきものは何だろうか。もちろん、まずは 「質の高い授業」 に違いない。しかしそんなものは日本国内でも、例えば東京の Goethe Institut にでも行けば多分受けられるだろう。にも関わらず我々がドイツで学ぶ理由は、より効率よく勉強するための 「環境」 を求めてに他ならない。そのためには、授業以外の生活に関しても、学校がどのくらい面倒を見てくれるか。それも学校選びの上では重要なポイントとなりえる。

 E-Mail でも ファクス(*1)でもいい。学校側に問い合わせる時、次のような疑問も加えておこう。「ドイツで住むには銀行口座の開設や住民登録など、さまざまな手続きが必要だと聞いた。しかし私は自分のドイツ語能力に、とても不安を抱いている。必要な時は適切な助言をもらえるだろうか」。

 Ich habe gehört, wenn man in Deutschland woht, müsse man viele Vertragen, z.B Anmeldung als Einwohner oder neue Kontoeröffnung usw, abschließen. Aber eigentlich sorge ich sehr, weil ich fast gar nicht Deutsch sprechen und hören kann. Deswegen möchte ich feststellen, wenn ich etwas wichtigen Vertrag abschließe, ob Sie mir helfen oder geeigneten Rat geben köennen.

直訳:
私は聞いた、ドイツで住む場合、人はたくさんの契約、例えば住民登録、あるいは銀行口座の開設など、を結ばねばならないと。しかし私は非常に不安だ。何故なら私はほとんどドイツ語を話せないし、聞くこともできない。そこで私は確認しておきたい。重要な契約を結ぶ際、あなたは私を助けてくれる事ができるか、あるいは私に適切な助言を与える事ができるか。

 こう書いたら、例えそこが対応の悪い学校であったとしても、向こうは必ず 「もちろんですとも」 と書いてくるに決まっている。当然にもこんな文章で、その学校の対応の良さを計る事はできない。しかし、これは一つの言質 (げんち) なのだ。もし入った学校の対応が気に入らなかったら、このメールのやり取りを提示すればいい。学校側が助けるといった以上、そしてその言を信じて金を支払った以上、こっちには学校側の助けを得る権利があるのだから。

 「語学学校は語学教育のみが仕事」 という言い逃れで職務放棄しようという事務担当者の怠慢は、このメールである程度は排除する事が可能だ。しかしいくら無理矢理助けさせる事ができても、対応の悪い学校の援助など、やはり不備だらけに違いない。これは別稿 「事務担当の姿勢」 に書いた内容と重なるのだが、とにかくまずは事務担当者の対応の良い学校を選ぶこと。これが重要だ。

 ただし、いくら対応が良くても、「生徒の学校外の生活に関しては学校の管轄外」 と、学校側が明確に意思表示している場合は、もはやお手上げである。だからまず最初の契約段階で、学校の援助が得られるかどうかを確認して、そのメールを切り札として持っておく事をお勧めする。












注: ファックス(*1)   以前、日本のNTTに電話した時、担当者のお姉さんに 「ファックスで」 と言ったら、「ファクスでですね?」 と聞きなおされた。次にまた 「ファックスを・・・」 といったら、お姉さんは 「そうですか、ファクスを・・・」 と言ったので、ボクは不思議になって聞いてみた。「ファクスなの?ファックスなの?どっちが正しいの?」 と。そうしたらお姉さんは小声で、「確かに一般的にはファ■クスなのですが、そう言ってしまうと・・・・、あの・・・、非常に申し上げ難いのですが・・・、例の性的な行為と勘違いされる場合があるということで、私どもではファクスと統一して申しております」 と、実に恥ずかしそうに答えた。ボクは目が点になってしまった。そうやって言う方がよほど恥ずかしいじゃないか。とにかくよくは分からないが、できるだけ 「ファクス」 と言うようにした方がイイらしい。 まぁ・・・、どうでもいいことだが。 (^^;ゞ

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