語学学校は生徒のために様々な企画を提供する。それは例えば市内観光 「しゅたとふゅ〜るんぐ
(Stadtführung) 」 や近隣の市に足を伸ばす遠足 「えくすくる〜ずぃおん
(Exkursion)」、図書館や駅・博物館など公共施設の利用法を学ぶミニ学習会、飲み会にビデオ鑑賞会、ボーリングにディスコ、地元名物料理を食べに行く夕食会があれば、実際にレシピを覚えてしまおうという調理実習まで、その内容は実に多彩だ。
ドイツ語を学ぶだけなら日本でもできる。しかし文化や社会の仕組みを目で見て体験するというのは、その国に住まなければできないことだ。せっかくドイツに来たのなら参加するのも悪くない。それに学校が企画するのもは、大抵一人で行たりやったりするにはちょっと難のあるものが多い。また団体で動くことによって、通常価格より遥かに安い値段で楽しむことができるのも魅力だ。
それに重要なのは、参加することが新たな友人をつくる契機になることだ。同じように参加したメンバーの中にクラスメイトがいたなら、積極的に話してかけてみよう。上手く話せないのはどちらも同じ。恥ずかしいことなどなにもないのだ。恐らく、校内に居るときとは違った話しが出来るだろう。気心の知った仲間がクラスに居れば、それは授業理解度の向上にもつながるというものだ。
しかし実際のところはというと、語学生の皆が皆それらの企画に参加しているわけではない。特に日本人の参加率は比較的低いように思われる。そしてボクに至っては、今までに提供された参加可能な企画のうちの実は1%も参加していない。例えばウィーンの語学学校のサマーコースでは、ほとんど毎日のように何かしら企画があった。なのにボクはそれに、ただの一度も参加しなかった。その理由を 「気が乗らなかった」 と言ってしまえばそれまでだが、今にして考えれば、その理由は明白だ。
特に時差ボケの激しい日本人にとって、渡欧後すぐは疲れが溜まって仕方がない。もちろん、疲れているからといって何もやっていないわけではないさ。自分のやりたいこと、例えば買い物に出かけたり美術館に行ったりと、個人的には動き回っているのだが、それに加えて授業後の学校行事にまで参加しようという気にはなかなかなれなかった。
初めのうち、「ボクは時差ボケしない人間なんだな」 と感じていた。それはツアー旅行者がよく言うような、激しいダルさを感じなかったからだ。事実ボクは渡欧後すぐにも関わらず授業後は毎日、市内を駆け回っていたのだから。しかしそれでも今思えば・・・、当時のボクでさえ一種の時差ボケ状態にあったのだと思う。
ヨーロッパの夏は日本に比べて一日が長い。そして学校側の用意する企画にまるで興味を感じなかったわけでもない。なのに毎日は自分のこと手一杯で申し込む気にもなれなかったのは、やはり知らず知らずのうちに溜まったストレスのせいに違いなかった。振り返って考えてみれば、ちょっと余裕ができて 「行事に参加してみようかな」 などと思えるようになったのは、渡欧後実に半年くらいしてからだったような気がする。
さて、語学学校カタログには各学校の長所ばかりが並び、悪口などまず書かれていない。なぜなら掲載に当たって出版社は、ほとんどの語学学校から掲載料を取っているからだ。しかし学校を誉めようにも、授業内容ではゲーテが最高とされている以上、ゲーテよりも素晴らしいなどとは書けるはずがない。とどのつまり、「ゲーテと提携」、「各種テストに対応」、「交通の便よし」、「快適な生活環境」、「魅力ある街」
などと書くか、そうでなければ、あとは 「授業外のイベント盛りだくさん」 とでも書かなければ、特色の出しようがない。だから学校案内にはこぞって
「歴史的異物の残るxxの街を巡る市内散策会」、「映画を通してドイツ文化に親しもう」、「週末にはxxなど市周辺の観光名所を訪れる小旅行も企画!」、といったオマケ行事をことさら強調したがるのだ。
しかしだ、本当にそんなものが必要かと言うとそうでもない。例えばボクがハイデルベルクで通った語学学校には、そんな企画などほとんどなかった。確かに何ヵ月かに一度は遠足などの企画もあったが、それらはパンフレットなどには出ない、客寄せとは無縁の行事だった。この学校はドイツ語だけでなくフランス語やギリシア語、ラテン語などの講座も多くあり、外国人だけでなくドイツ人も学んでいた。別にコマーシャルに力を入れているわけではないので、特定の生徒の国籍が固まったりすることもない。地元の人が通う学校なので、高額の授業料を要求することもない
(ちなみに2004年現在、月80時間で250ユーロ)。授業外のイベントはないが、そのぶん授業料は安い。日本の語学学校カタログに載るようなことはまずないだろうが、しかしその授業内容は決して悪くない。
同校に通っていた頃、ある重要な願いがあって、ハイデルベルク大学外国人学生課のトップとサシで話し合ったことがある。かなり年輩の、しかし非常に上品なその人が、話しの途中で 「ところで今はどちらの語学学校に通っているのですか?」 とボクに尋ねた。ボクが学校名を言うと 「あっ、そう!それはいいところに通っていますね。あの学校の卒業者は非常に優秀だし、学校経営も極めて健全なのよね。評価できる学校だと思いますよ」 と、自ら納得するように話していた。この学校に限らず、日本の語学学校カタログに載っていなくても評価の高い学校は、ドイツ中に星の数ほどある。そしてそういう学校の中には、授業後のイベントなど不用と考えている学校も多いのだ。
日本の出版社が出す学校カタログを見ていると、各種イベントが非常に重要なもののように思えてくる。なんだか、イベントをしない学校はサービスが悪いかのような気にさえなってくる。しかしそんなことはない。例えばウィーンやベルリンで 「1〜2ヵ月語学学校にも通って留学体験しちゃおうかなぁ」 なんて思っている人々ならともかく、本気でドイツ語の能力を上げようと思うなら、そういったコマーシャルに流されるべきではない。毎日イベントがあったところで、毎日参加する生徒などいやしないのだから。
もし授業後に何かしらイベントがあるなら積極的に参加してみよう。しかし学校を選ぶのに、イベントの充実度を基準にするべきではない。
2004.02.02
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