語学学校を選ぶとき、気になるのはやはり 「コスト」 だろう。我々は各学校の授業料、学校が斡旋する部屋の家賃を比べては計算する。しかし考えるべきは、実はソレだけではない。ヨーロッパの街に住めば、市内交通機関の利用はほぼ必須。市内交通に支払う定期券代も、実は生活費を大きく圧迫する要因となりうる。
まずは市内交通機関について少し説明しておこう (本稿ではドイツ国鉄 DB
には言及しない。DB および市内交通機関の詳細は別稿を参照)。市内を走る主な公共交通機関といえば、地下鉄
(U-Bahn)、路面電車 (Straßenbahn)、バス(Bus)、それにタクシー。もちろんタクシーは民間だが、他の機関はほぼ全て公営である。定期券を買えば、地下鉄、路面電車、バスに乗り放題だ。定期券システムは日本のような
「A駅からB駅まで」 というものではなく 「ゾーン制」 なので、ある指定されたゾーン内の交通機関ならどの方向に乗ろうと乗り放題なのだ。
チケットの種類は都市によって違うが、大抵次のようなチケットが存在する。
一回券、旅行者チケット(一〜三日券など)、回数券、一週間定期、一ヵ月定期(三ヵ月定期)、
一年定期、ゼメスターチケット。このうち語学生が利用するのは、「回数券」、「一ヵ月定期」、「一週間定期」
のどれかだろう。回数券はともかく、定期券はまた更に細かい種類に別れる。もちろん利用するゾーンの大きさによって値段は変るが、その他に「利用者の種類」が関係してくるのだ。街によって区分は多少違うが、大抵は「大人」
「子供」 「シニア(60歳以上)」と、「Ausbildende」 の4種類。Ausbildende
を日本語に直訳すると「修行中の人」、「教育期間中の人」 とでもいうべきか。つまり大学以外の学校に通っている人達の事だ。これには語学学校生や職業訓練校生なども含まれる
(本稿では以下 「生徒」 という)。ドイツでは語学学校に通っていれば、大抵は割引が効くはずなのだ。
しかしだ、ここで問題が生じる。語学学校生は割引対象者となるはずだが、全ての語学学校の生徒が対象というわけではない。恐らく・・・、これはあくまで推測に過ぎないのだが、ドイツ中に星の数ほどある語学学校のうち、対象外になるのは35%程度の学校ではないかと程度ではないかと、ボクは個人的に計算している。
ちょっと忘れてしまったが、ミュンヘン地域の交通機関の連合体 MVV は、確か語学生を「生徒」 と認めていなかったような気がする(現在は不明。Goethe-Institut は例外的に割引対象だったはず)。お隣のアウグスブルクでは語学生でも割引対象だが、ボクの通った語学学校 ADK の生徒は対象外だった。お国は違うがほとんど同じシステムを取っているオーストリアのウィーンにいた時も、ボクが通った学校 CulturaWien の生徒は割り引き対象外。しかしハイデルベルクで通った Heidelberger Pädagogium は州公認校なので「生徒」割引の対象だった。また大学付属だった Leipzig Herder Institut と、トリーア大学の語学クラス、はもちろん「生徒」扱いだった。 (この他、語学学校生の割引対象状況について、広く情報を求めます。情報提供先はコチラ)。
市内交通機関の1ヵ月定期券の価格 |
都市名 |
一般用 |
生徒用 |
差額 |
トリーア (1) |
41.00 |
31.00 |
-10.00 |
トリーア(2) |
52.50 |
39.40 |
-13.10 |
アウグスブルク(1) |
29.00 |
21.50 |
-7.50 |
アウグスブルク(2) |
42.50 |
32.00 |
-12.50 |
ニュルンベルク(1) |
48.70 |
38.50 |
-10.20 |
ニュルンベルク(2) |
78.00 |
61.00 |
-17.00 |
ハイデルベルク(2) |
43.40 |
34.50 |
-8.90 |
ハイデルベルク(3) |
64.20 |
49.50 |
-14.70 |
フランクフルト(1) |
30.00 |
22.50 |
-7.50 |
フランクフルト(2) |
47.60 |
35.70 |
-11.90 |
*備考:カッコ内の数字は Preisstufe の略。
そのチケットで乗車可能な範囲。 |
対象外という事は標準価格 (一般用) の定期券を買わなければならない。問題は標準料金と
「生徒」 料金では月当たりいくら違うかということだが、ここでいくつかの都市を例に挙げてみることにする。左の表を見て欲しい。
この差を大きいと見るか小さいと見るかは人それぞれだろう。自分が何ヵ月勉強したいのか、それを考えた上ではじき出して欲しい。ただ困った事に、語学学校案内にこの情報はまず載っていない。だからもし気になる人は、申し込み前にメールで学校に問い合わせてみよう。
そしてもう一つ問い合わせるべき点は、学校が生徒証を発行してくれるか否か。これは馬鹿にできない問題だ。学校によっては一切発行していないというところもある。しかしだ、生徒証がないということは、学校外において自分が生徒であることを主張しようがないという事だ。この場合、博物館に美術館、映画館に、動物園に、コンサートに、オペラに、ボーリングに、ディスコに、遊園地に、プールに、果ては教会の塔に上るのさえ、あらゆるところで割り引き対象外となり、正規料金を支払わねばならない。
市内交通機関の割引は、正直なところ厳しい場合があるにしても、公共施設やエンターテイメント分野では生徒に対して非常に甘いのがドイツ。大学生じゃなくても、語学学校の生徒証一つで結構用途は広いのだ。しかし生徒になったのに生徒証が発行されないのでは、せっかくドイツに居るメリットを活かし切れない。語学学校に問い合わせて、市内交通機関の学割が効かなかったとしても、まぁそれは目をつむろう。しかし生徒証を発行しないような学校を、ボクはあまりお勧めしたくない。
ちなみに生徒証の形式についてだが、これにも落とし穴がある。例えばミュンヘンの語学学校の生徒証を持って、ベルリンの美術館に行くとしよう。当然にも美術館はミュンヘンの学校など知りはしない。それでも、来場者が生徒証を見せて生徒だと主張している以上、割り引いてやらねばならない。それがドイツだ。だから生徒証の形式などどうでもよさそうなものだが、しかし実はどこに行っても無視されるタイプのの生徒証というものがある。
それは写真がないもの。はなっから素性の怪しい、民間学校の「生徒」。しかもそいつの持ってきた生徒証に、本人確認するための写真がついていなければ、大抵クレーム対象となる。だから生徒証について学校側に問い合わせる時、必ずこうやって聞こう。「生徒証発行の際に、写真を持参する必要がありますか?
大きさは?」と。これで第一関門はクリアだ。
次に問題となるのは 「有効期限」。困った事に、有効期限の書く欄のない生徒証を発行する学校がある。せっかく発行してもらったのに、博物館でこれを見せたら「有効期限が書いてないじゃないか。さすがにこれは認められないよ」
と冷笑されてしまった。もし書く欄さえなかったら、生徒証を発行してもらった時に、日付のハンコでも押してもらおう。少しは本物らしくなる。
写真には学校のハンコの一部が被るように押されるべきだ。つまり日本風に言えば「割り印」というやつだ。学校によってはハンコの代わりにエンボッシングしてくれるかもしれない。これによって写真の不正交換はできなくなるのだが、担当者によっては「ハンコが写真に被っていない!」なんてこともある。こんなものは論外だ。受け取った生徒証はちゃんと確認して、被っていなければ作りなおしてもらうべきだ。
さらに・・・。生徒証は大抵、ただの紙切れに過ぎない。これに写真を貼ってハンコを押して、学校側担当者のサインが入って完成だ。しかしこんなもの、作ろうと思えばパソコンとプリンタで、自分でも作れてしまう。そこでだ、もらった生徒証がインチキくさかったり、安っぽかったりしたら、自分で加工してみよう。これは結構効果的だ。加工と言っても、単にカバーをつけるに過ぎない。
恐らくどこの市でも同じだと思うが、日本の図書館で本を借りると、本のカバーの上から更にビニールでコーティングされているのを思いだせるだろうか。あれは巨大なテープを上から貼っているのだが、あのテープはもともとドイツ人が考えたもの(だと聞いた)。日本でもドイツ製のものが高値で売られているが、ドイツでは一巻き2〜3ユーロで買う事ができる。
これはドイツなら文具店にも置いているはずだ。どこの街にもある店で言えば、例えば
Müller や郵便局付属の Mc.Paper、あるいは DM なんかでも買うことができる。こいつで生徒証を綺麗にコーティングしよう。日本の運転免許証のようなビニールパウチとまではいかないが、これで安っぽさはかなり和らぐはずだ。
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