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ドイツの大学へ

コピー証明について
die Beglaubigung

往復書簡
コピー証明に関するベルリン事情
 大学の募集要項にほぼ必ず書かれている 「Beglaubigung」 とは日本語の「コピー証明」のこと。「Fotokopie」 は日本語に直訳すると「写真複写」となるが、要するにこれは「コピー」のことであって、つまるところ日本のコンビニに置いてある例のアレのことである。
コピー証明(裏面)。表から見た左肩の角を折り曲げてホッチキスで止め、裏に割り印を押す。また、裏面の何処かに、証明者情報と日付を記しサインする。


 願書出願時には日本の高校卒業証明などを提出するが、これらは原本であってはならない。この辺りが日本の感覚と全く違うので注意が必要だ。日本の場合、成績証明書などは内容を改竄(かいざん)出来ないよう密封し、封筒には「開封厳禁」 「開封無効」などと記されている。しかしドイツでは全ての公式書類をコピーして提出するため、日本の証明書類の入った封筒に、例え「開封厳禁」 「開封無効」と書かれていたとしてもこれを開封し、コピーしなければならない。しかし、ただ単にコピーすればよいわけではなく、そのコピーが原本と全く同じであることを証明しなければならない。これが「コピー証明」である。

 ドイツでのコピー証明は公的機関で行わなければならない。市役所やその関連施設 (Rathaus や Bürgeramt)、大使・領事館などで行うのが一般的だが、実は銀行やキリスト教の教会でも可能だ。しかし大学出願の場合には、銀行を認めていない場合も結構あるようだ(これは証明する銀行員が公務員でないという事に起因しているのかもしれないが、詳細は不明)。教会に関しては・・・、複雑な側面がある。

 例えば、募集要項のコピー証明に関する記述に、「Pfarrar」と書いてあれば牧師・主任司祭、「Pfarramt」とあれば牧師館・主任司祭館を指す。要は教会の事務所であり、日本風に言えば神社の「神主」と「社務所」と言ったところか。しかしこれを簡単に 「あぁ教会でいいのね」 と思い込んでしまうと痛い目を見ることがある。

 実はボクの友人がハイデルベルク大学に出願した時、この問題にまんまと引っかかってしまった。彼女が提出した書類には、教会の証明済みの印があり、ちゃんと Pater (神父)のサインがあった。しかし問題は、ハイデルベルク大学が evangelisch (プロテスタント)の側に立っているという事実だ。ドイツの多くの大学は、キリスト教の庇護下にある。キリスト教にカトリックとプロテスタントという、大きな2つの主流があるのは誰もが知っているが、しかし 「神父」 と 「牧師」 の違いに非キリスト教徒は非常に疎い。
複数枚重ねての証明は、全部をまとめて後ろに折り曲げる場合と、写真のように前面の一枚を前に折り曲げる場合がある(二枚重ねの場合に多い)

 神社の司祭といえば神主、仏教寺院なら住職だが、カトリック教会での神主に当たるのが神父 = der Pater であって、プロテスタント教会での神主に当たるのが牧師 = der Pfarrer である。この差はキリスト教徒にとって非常に重要らしい。これを間違うと 「規定外」 とか 「コピー証明不充分」 などという理由の書かれた Ablehnung (受け入れ拒否)の手紙が届くこととなる。ではなぜ多くの志願者が市役所でなく、危険を冒してまで教会でコピー証明を頼むのか。その理由は簡単。教会の方が証明料金が安いからだ。

 証明料金は事務所毎に大きな差があり、統一性というものがまるでない。例えばハイデルベルクの市役所で頼んだら、1枚あたり3ユーロ(2003-04年現在)だった。また、1つの書類が数ページに渡る場合も、1ページあたり3ユーロ必要だった。ボクが大学出願時に出したコピー証明済み書類はと言うと、高校卒業証明書、高校成績証明書、大学卒業証明書、大学成績証明書の4部(各1枚構成、日本の証明書は全て英語版。他にも語学証明書があるが後述)。つまり1つの大学に出願するために 「4部 x 3ユーロ = 12ユーロ 」の出費となる。確かに日本での料金に比べれば格安に違いない。しかし複数校に出願しようと思えば、これを笑って済ませるわけにはいかないのだ。例えばトルコ人などは厳しい規制の問題でなかなか入学許可を貰えない理由から、彼らは非常に多くの大学に出願する。その数、大抵15校以上。ボクの友人Abuduraくんは、30校に出願したと言っていた。だからこそ、安い教会を頼りたくもなるのだ。

 教会ならば、証明をお願いする全ての書類をひっくるめて、たった数ユーロだったり、あるいは無料という場合もある。まぁ、無料と言っても、多少の寄付(1ユーロでも可)をするのがマナーではあるが。ちなみにボクが利用した教会では、1枚あたり1ユーロだった。本来は「寄付」という形が正しいはずだから、この料金設定は少し納得がいかなかった。その教会は「大手教会」とは言わないまでも「中堅企業」、いや「中堅教会」という感じだったので、証明業務を多くこなしているせいか、料金も最初から明確に設定されていた。もし教会を利用するなら、街外れの小さなさびれた弱小教会がねらい目と言えるかもしれない。
左は一枚のみ、右は複数枚重ねて割り印した例。とにかく、「折って割り印!」というのが正式なやり方らしい(共に裏面写真)

 さて市役所での料金だが、実はこれにも大きな差がある。前述のようにハイデルベルクの市役所では1枚あたり3ユーロ支払ったが、これはかなり高い。しかも証明だけでなく、コピーも頼めば1枚あたり更に1ユーロの追加である(コピーは自分で持って行った方がよいが、市によっては持ち込み禁止の場合もある)。大学の出願締め切り間近になると、どこの語学学校でも出願ラッシュが始まり、様々な情報が飛び交うようになる。ボクはその中で、ハイデルベルク市近郊のヴィースロッホという街の市役所が安いという情報を聞きつけた。実際に行ってみると、次のような価格設定だった。

 とにかくどんなコピー証明であろうと、最初の1枚目は1ユーロ。しかし2枚目以降は一律50セント(2004年現在)。それを聞いたときボクは思った。4種類の書類があって、最初の1枚が1ユーロ。つまり 「4ユーロ + (50セント x 残り枚数)」 という計算になるのだと。しかしよく話を聞くと、内容はどうあれ、とにかく最初の1枚だけが1ユーロ。つまり 「1ユーロ + (50セント x 残り枚数)」 という計算が正しかった。結局ボクはここで、14セット(14校分)、合計56枚のコピー証明をお願いした。

 この時の料金は 「1ユーロ + (50セント x 55枚) = 28ユーロ50セント」。もしこれをハイデルベルク市役所で依頼したら、実に「168ユーロ」という額になってしまう。この差は明かに大きい。ちなみにヴィースロッホという市は、日本の感覚で言うと、市の周辺にある小さな町村の一つと考えれば分かりやすい。ハイデルベルクの人間にとっては生活上の移動範囲にあるので、他市と言ってもハイデルベルク市内のような感覚である。とにかく 「田舎は安い」 というのは、あながち間違いではない。もし自分の住む市の証明料金が高い場合は、迷わず近郊都市の情報を探ってみるべきだ。
教会に依頼した高校成績証明書のコピー証明。角を曲げず、用紙表側(裏は白紙)の下方に証明機関名とサイン、印章がまとめて押されている。この方法でも大抵は認められるが、正式ではないと思われる。運が悪ければ 「規定外証明」 と言われる可能性もあるだろう

 さて、もう一つ、出願時には現在在籍している語学学校の在籍証明書と語学能力証明書も提出するが、ボクはこれについては市役所で証明を受けなかった。まず在籍証明書は出願予定の14校分を、語学学校自身に無料で作成してもらった。本来、提出する全ての証明書類はコピーでなくてはならないが、しかしこれだけは原本でも許されるようだ。五つの大学に問い合わせたがいずれも「可」で、他の出願校からもクレームは来ていない。

 次に語学能力証明書。ボクは語学学校が独自に行っている「中級ドイツ語試験」を受けたのだが、もちろんこの証明書にはコピー証明が必要だ。しかしこの証明書は語学学校が発行したものなので、当然にも発行元であるその語学学校はコピー証明を行うことができる。発行元が「間違いない!」と証明しているのだから、文句をつけようがないのだ。しかしボクは当初このことを知らず、ハイデルベルク市役所で3枚ほど証明依頼してしまった。しめて9ユーロ。まったくの無駄金である。

 このような語学学校独自の試験を受けるケースは多々あるだろう。もちろん中級試験ならゲーテ・インスティテュートのZMPが最も信頼性が高いのだが、語学学校が州認定校(州認定校ならば市内交通機関は大抵割引が可能のはず)であれば、その書類は取り合えず効力がないわけではない。よってもし在籍している語学学校で試験を受ける機会があれば、その成績証明書は大切に保管しておくべきだ。

 ところで、ボクはDSH受験までに6校の語学教育機関でドイツ語を学んだ。その数は異常かもしれないが、学校を2つや3つ移り渡る人は結構いるはずである。そのような人は覚えておかなければならない。語学学校の在籍証明書や成績証明書は、もらったらすぐにコピーして事務所に持って行き、これに 「コピー証明」 を願い出ること。なぜなら、例えば大学に出願する際、願書には必ず 「これまでのドイツ語学習時間」 を記入しなければならない。これは非常に重要で、しかもイイ加減には書けない。規定以上時間学んだことを証明するには、証明書類が必要だからだ。
画像をクリックすれば拡大
ハイデルベルク大学が 2004/SS 用に配布した募集要項、「正しいコピー証明」 を解説したページ(画像をクリックすると拡大)

 ハイデルベルク大学の場合、最低800時間以上の授業出席実績が必要(このことは募集要項に詳しく書かれてはいないことが多い)。この数字は大学毎に差があるが、美術・体育系の学校は500-600時間という場合もある。また、忘れてしまって定かではないのだが、確かベルリンは1000時間以上必要だった気がする。この数字を下回る願書は大抵無視され、「受け入れ拒否」の手紙がやってくる。

 さて、ここで問題となるのは学校を移動した場合である。授業時間を書き込むには語学学校の証明が必要だ。語学学校を移る際、それまで在籍していた期間の成績証明書を貰うはずだが、これには在籍期間も明確も書かれているはずだから、授業時間を示す資料として有効だ。もし期間がかかれていなければ、別途「在学期間証明書」を書いてもらったほ方がいい。しかしこれを 「ハイ、ありがとう!」 と簡単に受け取ってしまってはいけない。もし大学出願時までその学校に在籍しているならば、学校側にいつでも無料でコピー証明をさせることも可能だろう。しかし学校を辞めてしまえば、もはや赤の他人。後でお願いしても受け入れてもらえない可能性がある。何しろ、間違いなく1枚は受け取っているのだから 「その1枚をコピーして、公共機関で証明してもらってくださいな」 と言われるのが落ちだ。そんなことになれば、また出費が嵩む結果となる。そうなる前に必ず先手を打ち、貰った証明書類みな、最低10枚程度は無料で証明させておくべきだ。

 さてコピー証明の方法だが、証明してくれる機関によって方法が違う場合がある。これはその街の習慣とか、市役所方式、教会方式とか、あるいは困ったことに担当者が無知なために特殊な形式で証明される場合もある。だから証明作業が完了したらその場で(後日受け取りの場合は受け取り時)確認し、もし奇妙な証明方式だった場合はクレームをつける必要がある。

 しかしドイツ方式を知らない外人は、「いったいどの方法が正式なんだ?」と首をひねるのが当たり前。だから大学出願時には、間違った形で提出されるものも多いようだ。ハイデルベルク大学が 2004/SS 用に配布した募集要項には、「正しいコピー証明とは」ってな感じで詳しく解説されている。ハイデルベルク大学担当者らは、志願者から送られる証明書類が毎年毎年間違いだらけなことに、よほど頭に来たらしい。しかしこれは非常に有用な情報なので紹介しておこう(画像をクリックすれば拡大写真を表示)。寂れた教会とか、田舎の市役所を利用する場合は、証明を依頼する前にこの説明が書き見せれることによって問題は回避できるはずだ。ただし、念頭において欲しいのは、これはあくまでハイデルベルク大学が求める形式であって、他の方式すべてが完全な間違いというわけではないだろういうこと。また、他大学には他大学のスタンダードがないとは言いきれない。

※基本単語: コピー証明はドイツ語で die Beglaubigung -en、動詞の場合は beglaubigen 完了助動詞は haben

2004.01.17

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