「ドイツの大学へ」 の目次

ドイツの大学へ

どう学科を選ぶか

日本とは異なる学問カテゴリー
 ほとんどの人は既に日本を出るとき 「ドイツで何を学びたいか」 というおぼろげな、あるいは明確なプランを持っているはずだ。ところがそんなプランとは全く別の道を、渡独してから突然選ぶ人がいる。それはいったいなぜか。

 例えば日本でいう 「歴史学」 を学びたい場合、ドイツではどの学科を選ぶべきだろうか。当然にも第一候補は 「Geschichte / 歴史学」 なのだろうが、学科名を調べると他にも歴史に関係する学問は多い。そこで一度、下表を見て欲しい。

時期別カテゴリ
Geschichte (歴史学)
Geschichte, alte (古代史)
Geschichte, mittelere (中世史)
Geschichte, mittelere und neuere
Geschichte, neuere
Geschichte, neuere und neueste
Geschichte, neueste
Geschichterstudien
Geschichte der Natürwissenschaften
Geschichte/Histrische Hilfswissenschaften

特定国別カテゴリ
Ägyptologie (エジプト学)
Assyriologie (アッシリア学)
Amerikanistik (アメリカ学)
Indologie (インド学)
Iranistik (イラン学)
Koreanistik (韓国学)
Japanologie (日本学)
Lateinamerikanistik (ラテンアメリカ学)
Sinologie (中国学)
.......................etc.
広範な地域別カテゴリ
Geschichte Afrikas (アフリカ史)
Geschichte, asiatische (アジア史)
Geschichte, bayerische/fränkische
Geschichte, europäische
Geschichte Lateinamerikas
Geschichte, nordische
Geschichte, ost-, südosteuropäische

その他特定分野
Archäologie (考古学)
Archäologie, frühgeschichtlische
Archäologie, klassische
.........etc.
Kunstgeschichte (芸術史)
Kunstgeschichte, orientische
Kunstgeschichte, ostasiatische
.........etc.
Kulturgeschichte (文化史)
Kulturgeschichte Ost- und Mitteleuropas
Kulturgeschichte, europäische
Chronologie (年代学)
.............etc

 日本では聞いたことのないようなものが学問化されていたり、あるいは日本の 「専攻」 に当たるものが、独立した Intstitut として存在しているのがわかる。だから日本の学科選びのように、「まずは文学部史学科に入ってから専攻を絞ろう」 などという融通が利かないのだ。歴史学を学ぼうと思ったら、自分がどんな歴史を学びたいのか事前に確定しなければならない。つまり時期別に考えてみて 「古代」 「中世」 「近現代」 などから選ぶか、または広範な地域別に 「アフリカ史」 「ヨーロッパ史」 「アフリカ史」 などから選ぶか。
ハイデルベルク大学の2002年度版 Studienführer。各学科で何を学べるか、本書が詳しく説明している
あるいは特定の国、つまり 「エジプト学」 「アッシリア学」、日本史ならば 「日本学」 でも可能だろうし、 「考古学」 や 「古文書学」 という選択肢もあるし、更に 「文化史」 や 「芸術史」、「年代学」 なんていうのも存在する。

 しかし問題なのは、例えば一口に 「近現代」 と言ったとして、それはいつの時期を指すのか分からないことだ。日本でいう 「近現代」 とは時代区分が違うはずだ。そしてそもそも、エジプト学、アッシリア学、古代学、考古学って、一体何が違うんだ?? 更にそれぞれに Magister, Diplom (修士課程), Bachelor (学士課程) などの区分があるし…、とまぁ、考え出したらきりがない。日本とは学問区分が違うから、そこで一体何を学べるのかさっぱり分からないのだ。留学を希望する我々にとってこれは大きな問題となる。

 歴史学に限らず、どんな分野でも大抵は日本の分類よりも細かい。音楽を学ぶなら Universität (総合大学)ではなく、Musikhochschule (音楽大学) なのだが、しかし 「 Musikwissenschaft / 音楽学」 の分野は、Universität (総合大学) の領域となる。この辺りも留学前の人にとっては実に分かりにくいのではなかろうか。だからドイツに来る前は 「経済学」 を学ぶつもりが、実際に調べてみると自分のやりたいことは、 「純粋な経済学ではなかった!?」 なんてことに気付き、いきなり志望変更を余儀なくされたりするのだ。


ドイツの学問カテゴリを理解するには
 さて、このような問題をクリアするには、それぞれの学問がカバーする領域についての知識を得なければならない。ボクは最初、それぞれの Institut / 学科 (と訳すべきなのだろうか?) に行って聞いてみるしかないと思っていた。それでまずは大学に行って、片っ端から教授陣のドアを叩いたのだが、ある時イイことを教えてもらった。大学毎に独自に発行されている der Studienführer の存在だ。
ハイデルベルク大学・学科解説の目次

 早い話が大学の案内書なのだが、日本の入学案内などとはワケが違う。これには大学内のあらゆることが網羅され、大学志願者から学生、職員までもが活用する書籍で、大抵は大学のある街の書店で購入できる。ちなみにこの本の編集は各大学が独自に行っているので、形態にも違いがある。多くの大学で採用されているのは 「一冊網羅型」 のようだが、大学によっては 「内容別分冊型」 もある。要は一冊にまとまっているか、複数巻に別れているかの違いなのだが、特に通信販売などで購入するときには注意が必要だ。

 ちなみにハイデルベルク大学は分冊型、全3巻。各学科に関する説明をまとめているのは第3巻の、その名も正に Band V / Studienführer。そのまんまだ。ではこいつを例に、詳しい内容を紹介しよう。

 手元にある2002年度版 (古くてごめん) を例にすると、全312ページのうち、最初から81ページまでは大学志願者向けの情報が集められている。例えば学籍登録 Immatrikulation、学籍抹消 Exmatrikulation、休暇の方法 Beurlaubung、大学転校 Hochschulwechsel、学科変更 Studienfachwechsel、聴講生 Gasthörer.....、などに関する説明である。

 そして82ページからほぼ最後までが 学科解説 「Das Fächerangebot von A-Z」 となっている。左の写真は学科解説の目次部分で、大学内に存在する全ての学科の内容を詳細に説明している。学科説明はそれぞれの学科の教員らが担当しているらしく、内容は完全に統一化されてはいない。
  Japanologie / 日本学
日本とはどんな国か
日本学とは一体どんな研究なのか
ハイデルベルク大学における日本学とは
なぜに日本を学ぶのか?
この学問の目的
学ぶ課程・研究プログラム
日本学の学生がやるべきこと
副専攻とするか主専攻とするか
入学許可について


Soziologie / 社会学
一般的にいう 「社会学」 とはどんなものか
ハイデルベルクにおける社会学とは
ハイデルベルク大学での社会学の研究領域
学ぶ課程・研究プログラム
終了試験に関する詳細

 とりあえずサンプルとして、Japanologie / 日本学Soziolohgie / 社会学に関する解説の要旨を挙げてみよう。グリーンの枠内の内容を参照して欲しい。各学科を選ぶ前に、志願者が必要とするあらゆるデータが満載されている。

 しかしここで説明されているのは、あくまで 「ハイデルベルク大学での日本学/社会学」 であって、この内容が他の大学でも同じとは言いきれない。大学が培ってきた歴史背景や、過去に在籍した著名な学者らの影響によって多少の違いがある。よって、この本で得た情報が全ての大学に合致するものではありえないものの、我々外国人にとって非常に重要な情報に違いない。

 例えば本稿の冒頭に取り上げた、 Geschichte (歴史学)、Geschichte, alte (古代史)、Geschichte, mittelere (中世史)、Geschichte, mittelere und neuere、
Geschichte, neuere などの歴史学の分野に関しても、その内容の違いを明確に定義付けているから、日本でのカテゴリー区分との差を容易に理解することができる。また各学科説明の最後には、問い合わせ先、相談窓口の開設状況も明示されているので、内容に疑問があればいつでも個人的に話を聞きに行けるシステムとなっている。


学科変更に関して
 ところで、出願時には専攻学科を明記しなければならないが、「専攻してみたはいいけれど、思っていた内容と違っていた…」 という場合、一体どうすればいいのだろうか。こういった問題は外国人のみならず、ドイツ人にだって大いにありうる。そこで大学では大抵、最初の数週間から一ヵ月程度を 「お試し期間」 と設定しているようだ。例えば 「政治学に志願したものの、どうやら自分のやりたいのは、ドイツにおける 政策学 のような気がする」。という場合、お試期間内に学科変更を申し出よう。変更先の学科が NC - Numerus clausus (入学者制限) でなければ、大抵は問題なく受理されるはずだ。

 え? じゃぁ、最初はいい加減に選んでもいいのか? と思うかもしれないが、実は本当に 「いい加減に選んでもよい」 。だからこのシステムを逆手に取ることも可能だ。例えばハイデルベルクでは、冬ゼメスターの社会学は一般募集、夏ゼメスターは NC である。当然にも夏ゼメスターに社会学を申し込んでも、入学許可証をもらえない可能性が高く、許可証がないという事は DSH を受ける権利さえ与えられない。

 そこで NC の学科に入りたい場合は、とりあえず他の学科を専攻して入学許可証をもらい、DSHの受験資格を得て、大学に入ったのち学科変更をするという裏技もある。最も考えられるのは、とりあえず DaF - Deutsch als Fremdsprache / 外国語としてのドイツ語学科を専攻しておき、後で学科変更する手だ。例え学科変更が受理されなくても、我々にとって語学は絶対的に必要な要素。だから最悪1ゼメスター、つまり半年間そこに在籍しても、結果的には無駄にはならない選択肢といえるだろう。

 専攻学科を選ぶには、まずは自分の学びたい領域をどの学科がカバーしているかを知ること。そしてその学科が NC であるのか否か。場合によってはつぶしの利く DaF などを選ぶ。これが基本ではないだろうか。実のところ、どの学科がどんな研究をしているか、それは実際に入ってみなければ分からないのが実情だ。学科選びは簡単ではない。だからこそ変更も可能。そのことを念頭に置けば、自ずと道は開けるに違いない。



2005.04.28 kon.T




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