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ドイツの大学へ

どう大学を選ぶか

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DAADが配布している冊子。恐らくドイツ留学生の多くが、一度は見たことがあるはず(無料配布)
 とにかくボクにとってこれは重大な問題で、渡欧して約一年半の間ひたすら悩み続けた。長く在籍することになろう、そして自分の母校となろう大学を選ぶのだ。いい加減に選べば、必ず後で後悔することになる。

 これがもし日本ならば志望校の決定はそう難しくない。どうしても入りたいという憧れの大学がない場合、偏差値レベルを見て出来るだけ高い、そして入れそうな大学に入ろうとするのが大抵の日本人の傾向だろう。ところがドイツの大学には入学試験というものがない (DSHは入学試験ではない) から、そもそも「レベル」 というものがない。つまい早い話が何処の大学にでも入れるということであり、それは実に嬉しい限りなのだが、それが逆に悩みの種となってしまう。さて何処で学ぶべきかと。

 ボクはまず周りの日本人留学生に片っ端から聞いてみた。「どこの大学に入りたいの?」 「なぜそこを選んだの?」 「選んだポイントは?」と。しかし困ったことに、大抵の日本人の答えは、ボクにさっぱり該当しない。彼らの理由は、

 1、日本の自分の大学と提携している大学
 2、日本の自分の大学の先生の関係大学(弟子筋・師匠筋など)
 3、日本の自分の大学の先生の推薦する大学

 というのがほとんどだった。彼らはドイツの大学について自分で調べ、自ら決心したのではない。自分の先生や大学に何らかの関係のある大学に、いわば 「流れていく」 に過ぎないのだ。もちろん大学間の交換留学ならそれは当たり前。しかし個人的な留学であっても、これほどまでに母校や恩師の影響を必要とするものだとは思っていなかった。
DAAD配布冊子の巻末リスト。学科の設置情報を示すが、実際には細かなところまで網羅されていないのが惜しい

 ボクの場合、日本で在学したのと同じ学科を専攻するわけではないから、恩師のツテというものがない。いやそれ以前に、そもそもボクのいた経営学なんて学科は、基本的にアメリカ向き。だから英米留学の情報を持つ教員はいても、ドイツ留学を考える経営学者なんてほとんどいないのだ。だから恩師や母校からの支援を得ることが全くできない。ボクは自分の留学がノーマルではないということに、ようやく気付き始めた。

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 もちろんボクの尋ねた全ての日本人が上記のように答えたわけではない。自分の専門の為に最良の大学を選んでいる人もいる。例えばライプツィヒで知り合った Kotaro Y. さんは、哲学者・ライプニッツの研究のためライプツィヒ大学にいた。何故なら同大にはライプニッツの著作の多くが、原書で保存されているからだそうだ。彼はその事実をちゃんと知った上で大学を選んでいた。そう、大学を選ぶとき重要なのは、自分の学びたい分野の資料や、その分野の高名な学者を揃えている大学についての情報を得ることなのだ。

 しかし困ったことに、ボクはこの理由でも大学を選ぶことができない。日本では経営を学び、ドイツへは社会学を学びに来た。知り合いには社会学教員も、社会学部出身者もいない。ボクが始めようとしている学問に、ボクはほとんど無知だったのだ。確かに社会学の著名ないくつかの文献には日本で目を通した。しかしだからといって現役の高名な学者が何処にいるかとか、どの大学に社会学の資料が集っているのかなど、そんな情報をボクは持ち合わせていないし、教えてくれる友人もいない。
年二回発行される Studienangebote 誌。ドイツ全土の大学の、全学科をリストで紹介。2004/SS版は4.90ユーロだった


 そこで仕方なく、ボクは地元ドイツ人にも聞いてみた。ボクが聞いたのはボクが住んだ街に住むドイツ人らで、それはつまりウィーン、ミュンヘン、アウグスブルク、ライプツィヒなど多数。しかし彼らが口を揃えて言うには、「そりゃこの街の大学が一番さ! ここには社会学科もちゃんとあるんだから!」。ボクは忘れていた。 ドイツ人は 「オラが街の自慢」 が大好きなのだ。自分の街の大学に社会学科があれば、当然にもその大学をイチ押しする。そして困ったことに、社会学はドイツ中ほとんど全ての大学で学べるのだ。

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 もはや社会学科のみの良し悪しによって決めることはできない。ボクは副専攻についても考えることにした。ドイツの大学でマギスター(別稿参照)コースを取とれば、同時に2つから最大3つの学問を同時に勉強することとなる。この副専攻も重要なのだ。

 ボクの研究したいテーマは小学生の頃から変っていない。そしてそれを研究するために必要な学問もよく分かっている。社会学はもとより心理学、哲学、政治学、文化人類学、そして特に重要なのが歴史学。とにかく多くの学問知識を要求する学際的なテーマである。もちろん全ての学科を専攻することはできないさ。そりゃ多すぎるんだから。しかし大学での研究のかたわら、これらの知識を自習し身につけるには、やはり自分の大学にこれらの学科がちゃんとあることが望ましい。そこでボクは、自分の望む全ての学科を持つ大学が何処にあるのかチェックすることにした。

多彩なマークを駆使したリストが詳細な情報を提供する Studienangebote 誌

 最初利用しようとしたのは DAAD (ドイツ学術交流教会- Deutscher Akademischer Austauschdienst) のホームページの一つ「campus-germany.de」だ。このサイトではどの大学にどんな学科があるのかを、都市名、学科名ほか、いろいろな項目を使って検索することができる。しかし困ったことに、当時のボクはそのホームページを簡単に理解できるほど、ドイツ語にも英語にも明るくなかった。だからその「学科検索コーナー」に辿り着くのさえ大変だった。そこで頼りにしたのが、同じDAADが配布している無料の小冊子、Studien in Deutschland - Information für Ausländer über das Studium an deutschen Universitäen。これはDAAD東京事務所はもとより、大抵どこの大学の外国人学生課でも貰うことができる。巻末には全大学の学科リストがあり、当初のボクはこれに首っ引きだった。
有名な全国紙「Stern spezial」。年一回特集される「大学ランキング」では、大学毎の施設や教員の質を紹介。2003.4月号は3.50ユーロだった


 ところが、知り合った日本人に言われて初めて知ったのだが、実はこのリスト、「あまり詳しい情報ではない」。各学科の新入生受け入れは状況は年毎に違うだけでなく、夏学期か冬学期かでも大きく異なるのだが、このリストではそのあたりの情報を得難い。これを鵜呑みにしてしまうと、入学する予定の学科に入れない可能性があるのだ。

 それに気付いて、更に手に入れたのが、「Studienangebote deutscher Hochschulen」 (出版社:W.Bertelsmann Verlag GmbH & Co. KG)。これは書籍ではなく薄い雑誌で、掲載されている大学リストは詳細で見やすく非常に重宝する。ただ困ったことに、この雑誌はあくまでドイツ人用であり、我々外国人の大学出願期限よりも後に発行される。だから最新の情報を得ようにも間に合わないのが実状だ。また入学規制などの問題は我々外国人の場合と場合と少し違うので、やはりこれも鵜呑みにはできない。しかしどの大学にどんな学科があるのかを調べるのに同誌は最適だ。ボクは自分にとって必要な全ての学科を置いている大学を、片っ端からリストアップすることにした。かなり絞れはしたものの、しかしまだまだ候補が多すぎる。絞り切るには、更に条件を加えねばならない。
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 更に絞り込むため、ボクは当初から考えていた「観光地作戦」を視野に入れることにした。
 ボクはドイツの大学で12年間学つもりで日本を出た。これは決して短い期間ではない。日本で働いて貯めた預金など焼け石に水である。ボクは勉強しながらも、ドイツで働き口を見つけねばならない。しかし2004年3月現在も、ドイツの失業率は約10%。職探しはそう簡単ではないはずだし、学生ビザで働ける日数など知れたものだ。それでも生活費を得ねばならないなら、帳簿に残らない、闇金を稼がねばならない。そう考えた結論が「観光地作戦」である。
Stern spezial のデータは実に細かく。各学科に関する動向や、各大学の学生寮費など多岐にわたる

 ドイツで働いて、ドイツ人から金を貰えばそれは「給料」。しかし日本人旅行者をターゲットに個人的に仕事をすれば、貰う金は 「給料」 ではなく 「謝礼」 と考えることが可能なはずだ。この場合ビザが定める就労規制には抵触しないだろうから、いくら稼いでも咎められる可能性は(恐らく)ゼロのはずだ。日本人から謝礼を得るには、多くの日本人が訪れる観光地か、日本人がたくさん住む街に住まねばならない。ボクは旅行ガイドを開いて、主要な観光都市を片っ端からリストアップした。ミュンヘン、フランクフルト・デュッセルドルフに日本人が多いのは当然だ。しかしこれらの街は家賃が高騰していて、住むには別経費がかかるので除外した。狙うは大都市ではなく中小都市、家賃や交通費の安い街、且つ観光都市!

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 しかしそれでもまだ候補に上がる大学は多い。何しろ社会学や歴史学、政治学に心理学なんて学科は、凡そどこの大学にもあるんだから、あらゆる有名観光地がターゲットになってしまう。次なる絞り込み用件にあえいでいた時、日本人の友人からまた面白い言葉を聞いた。それは「タンデム・パートナー」。Tandemとは「二人乗り自転車」の意味で、語学では互いの言語を勉強する二人がペアになって話し、互いの能力を高めようというもの別稿参照のこと)。そこでタンデムパートナーを得るため、更に 「日本学科 (Japanologie)」 設置大学を、候補に入れることにした。日本学科は単にドイツ語習得のためだけでなく、いずれはドイツ語で書かなければならない論文のためにも、我々日本人にとって有用な情報を提供してくれるに違いない。また Japanologie 設置大学のある街には、必ずといっていいほど多くの日本食材店や和食レストランがある。つまり職探しの可能性まで広がるわけである。
Stern spezial: 評価は緑のマークが上、オレンジが中、赤が下。また灰色は事情によりランキング外を示す

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 志願すべき大学は結構絞れてきた。しかしどの大学を第一志望にするか。これは極めて重要だ。大学に入るには DSH試験 を受けねばならないが、その出題傾向や難易度は大学によって大きく違う。語学学校の DSH直前対策クラスを受講するなら、志望大学のある街の語学学校を選ぶべきだ。

 例えば工科大学や工業系学科の学生の多い大学では、当然にも工業分野の試験問題が出題されやすい。例えばボクが受けた TU Darmstadt のDSH では、化学合成素材(プラスティック、ポリエチレン) に関する問題が出された。一方、社会科学系学科が多くを占める Uni Heidelberg では、どちらかというと社会問題、心理学的な問題が多い。語学学校はこういった違いを踏まえて常に出題傾向を日夜研究しているわけだが、多くの情報が集るのは、やはり語学学校の近隣の大学についてだ。例えばミュンヘン大学に入りたいなら、ミュンヘンの語学学校で学ぶのが近道となる。

 しかし第一志望の大学が定まらねば、どの街の語学学校に入るべきか、まずそれが決まらない。そこで参考になるのが stern spezial CAMPUS & KARRIERE - Der Studienführer -。ドイツの大学には日本のような 「レベル」 というものがないことは既に書いた。しかしそれは大学への入り難さ、入学志願者に要求する基礎学力の高さに関する 「レベル」 であって、大学そのものの 「質」 に関してではない。大学の「質」、すなわち 「図書館充実度」 や 「過去に排出した著名学者の数」 といった類のランキングはドイツにもちゃんと存在する。そしてこれを徹底的に調査しているのが、この Stern 誌なのだ。
Stern spezial 巻末の Städte-Guide。各大学の住所やWebアドレスなどの他、学科の占める割合をグラフで表示

 そもそも Stern とはドイツ国内はもとより、オーストリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、イタリア、スペインでも購入できる有名な雑誌。最新の学術研究・調査結果、スポーツ、政治経済、時事問題など、幅広い分野の情報を取り扱う。そのうち特定テーマに関して特集する号が Stern spezial で CAMPUS & KARRIERE は4月に発行される(実際には3月ごろ書店に並ぶような気がする。この特集は結構人気があるようで、どうやら注文すれば年中手に入るらしい)。

 さてこの特集の中で最も目を引くのが Hochschulranking 大学ランキングで、その内容は実に興味深い。主要な学部毎に調査されていれ、例えば2003年4月号の informatik (情報処理学・コンピュータサイエンス) のページでは、43 の Universität (TU含む)と、42の Fachhochschule について、 Proffessorentipp, Forschungsgelder, Laborausstattung, Studiendauer, Gesamturteil Studierende の5項目を3段階(及び 「事情によりランク外」の計4段階) の色分けで表示している。

 上の写真を見て欲しい。評価は多少辛口のような気もするが、とにかく緑のマークが多いほど良い。オレンジは標準的、赤は標準以下を示す。また、右の写真は同誌の巻末にある Städte-Guide。各大学の住所をはじめ、基礎データがまとめられている。目を引くのは大学内に占める各学科の占有率。数学-自然科学系、法-経済学系、工業技術系、言語学系などのカテゴリーに色分けされて示されている。とくに重要なのは、各大学毎の Semesterbeitrag。これはゼメスター毎に大学に支払う料金なのだが、これはあくまで手数料のようなもので日本の授業料という意味合いのものではない。この料金、大抵は州毎に決まっているのだが、中には大学独自に加算されているものもあるようだ。

 金額を見てみると、Amberg は28ユーロ、Berin 87ユーロ、Bonn 106ユーロ、Essen 114 ユーロ、Freiburg 34 ユーロ、Leipzig 49ユーロ、München 28ユーロ、oelsnitz 228ユーロなどさまざま。日本人にとってこの程度の額はそう高く感じないのだが、中には完全な授業料形式の大学もあり、例えば Vallendar の3580ユーロ、Bad Honnef 3390ユーロ、Isny 1140ユーロ、そして恐らく最も高いのは Stuttugart Institut of management and technology の24000ユーロだろう。

 確かにドイツの大学は授業料無料ということになっている。それは正しく、ほとんどの大学で数十から二百数十ユーロ程度なのが実状だ。しかし全てがそうではない。「外国人留学生からは授業料を徴収すべきだ」という声はかなり前から上がっているし、実際に授業料として徴収している州も若干見られる。またドイツにも私立大学は存在し、それらの授業料は決して安いものではない。「ドイツはタダ!」だと思い込んでいると、いざ入学の時に驚いてしまうことにもなりかねない。在学期間中にいくらかかるのか。その計算は必ずしておこう。

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 最後のポイントはDSH試験の難易度だが、しかしこれにはいろいろな要件からんでくる。例えば、他の大学で合格した証明書を持っていけば、志望校で合格しなくても入学可能であるなど。どにかくDSHのに関する全情報は別稿1 および 別稿2 にまとめたので、そちらを参照して欲しい。

2004.01.24 kon.T

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